映画監督の矢口史靖氏の新作映画
「WOOD JOB!~神去なあなあ日常~」
映画監督の矢口史靖さんといえば、
シンクロナイズドスイミングに挑戦する男子高校生を描いた「ウォーターボーイズ」や、
女子高生がビッグバンドでジャズを演奏する「スウィングガ-ルズ」など、
ユニークな題材のヒット作を放ってきました。
最新作のテーマに選んだのは「林業」。
「いまどきの子が携帯も通じない、コンビニもない、その分人間関係は濃い、というなかで成長していくさまを描きたかった」と、作品のねらいを語りました。
矢口史靖監督の最新作「WOOD JOB!~神去なあなあ日常~」は、三浦しをんさんの小説が原作です。
染谷将太さんが演じる主人公の勇気は、
大学受験に失敗し彼女にもふられた現実から逃げようとたまたま目にしたパンフレットにつられて林業研修に参加します。スマートフォンは圏外、コンビニもない山村で、山仕事の厳しさに打ちのめされながらも成長していく物語です。
なぜ一見地味とも思える林業を題材にしたのか。
「主人公の勇気君は都会生まれ、都会育ちのデジタル世代の子。
もうスマホが手放せないような子なんですけど、村の中にはコンビニも何もないわけですよね。
レンタルビデオ屋さんもないし、だからレジャーが少ない。
その分だけ人間関係も濃くて、生命力の力強さとか楽しさを感じると、
むらむらと少年は男に成長していく…という風に描きたかったので、そこは新しい挑戦です」(矢口監督)
撮影ではスタントマンを一切使わず、出演者が指導を受けて実際に木に登って切ったりと、リアリティーにこだわりました。
また矢口監督自身が9か月にわたって林業の現場を取材し、感銘を受けたことばも盛り込まれています。
例えば親方が語る
「おかしな仕事やと思わんか。農業やったら手間暇かけて作った野菜がどんだけうまいか、
食べたもんが喜んだか分かるけど、林業はそうはいかん。
ええ仕事をしたかどうか結果が出るんは、おいらが死んだあとなんや」というセリフ。
「人間の寿命なんてほんとにささいな一部分でしかなくて、
木はそれよりも何百年も長く生きる、壮大なものを感じました。
映画の中で勇気くんはそのことばを親方から聞いても『ふーん』としか返事できないんですよ。
彼は自分の人生がスタートして終わってしまえば、すべてがおしまいって思っている若者ですから。
そのときは理解できなくても、もしかして子どもが生まれたりしたら“あ、
林業の仕事って、そういう命を引き継いでいく仕事なんだな”って、そのとき初めて理解できるんだと思います。
自分がやってる仕事が死んでも完結しないでまた別の人に引き継ぐって、
サグラダ・ファミリアの建築家ぐらいじゃないですかね」(矢口監督)
映画では、「エコブーム」といわれ里山の暮らしに関心を持つ人が増える一方で、
実際に林業に就く人は少ない現状も描かれます。
「向き不向きはあるので、誰もができるとは僕も思わないです。
話を聞くと、研修で入ってきてもすぐ辞めちゃうという子のほうが多いんですよね。
だけど、そこでこの映画が“林業の啓もう”に偏ってはいけない、と僕は思ってます
決して“オアシス”とか“楽園”ではなく、そこに住んだら、そこの人たちとの面倒な関わり合いもあるし人間関係もある。
ノンストレスで美しくて緑いっぱい、なんてエコなんでしょうではすまない、いろんなことが待ち受けています。
だけど、それを越えた先には、おそらく都会で味わったことのない豊かさが待ってるはずなんですよね。
主人公の勇気くんにはちゃんとそこまで到達させたかったんです」(矢口監督)